薪ストーブを使っていると、
「煙突に穴が開いた」
「3〜5年で腐食してしまった」
という話を聞くことがあります。
特に日本で多く使われているハゼ折煙突(シングル煙突)では、比較的短い期間で穴が開くケースもあります。
ではなぜそのようなことが起きるのでしょうか。
原因の多くはステンレス素材の違いと燃焼環境の違いにあります。
煙突に使われるステンレスの種類
薪ストーブ煙突に使われるステンレスは主に次の3種類です。
SUS430
フェライト系ステンレス
特徴
- 磁石が付く
- 価格が安い
- 耐食性は304より低い
日本のハゼ折煙突の多くはSUS430で作られています。
SUS304
オーステナイト系ステンレス
特徴
- 耐食性が高い
- 加工性、溶接性が良い
- 一般的な高品質ステンレス
煙突では
- 溶接煙突
- 一重煙突
- 断熱煙突の外筒
などで使われることが多い素材です。
SUS316
モリブデンを含む高耐食ステンレス
特徴
- 304よりさらに耐食性が高い
- 酸に強い
- 価格が高い
そのため高品質な断熱二重煙突では
外筒 304
内筒 316
という構成がよく採用されています。
煙突内部は
- 酸性ガス
- 結露
- 煤
- タール
などによって腐食しやすい環境になるため、耐食性の高い素材が必要になります。
ステンレス素材の価格差
材料価格は市場によって変動しますが、一般的には次のようなイメージになります。
430 = 1
304 = 約1.5〜2倍
316 = 約2〜3倍
316にはモリブデンが含まれるため価格が高くなります。
そのため煙突メーカーでは、必要な部分にだけ高価な素材を使う設計がよく行われます。
山のえんとつ屋の煙突もこの考え方を採用しています。
- 断熱二重煙突:内部管 SUS316 / 外筒 SUS304 / 板厚 0.5mm
- 一重煙突:SUS304 / 板厚 0.7mm
業界の中で最安価格の商品ではありませんが、その大きな理由は素材の違いです。
最安価格帯の商品にはSUS430が使われているものが多く、山のえんとつ屋の煙突とは素材コストに差があります。
煙突は一度設置すると簡単に交換できるものではありません。長年使用することを考えるのであれば、SUS304やSUS316の煙突の方がおすすめです。
なぜハゼ折煙突は穴が開きやすいのか
ハゼ折煙突が腐食しやすい理由はいくつかあります。
1 SUS430は耐食性が低い
SUS430は価格が安いステンレスですが、耐食性は304や316より低い素材です。
煙突内部では
- 酸性ガス
- 結露
- 煤
- タール
などによって腐食が進みやすくなります。
そのため長期間使用すると腐食が進み、穴が開くことがあります。
2 薪ストーブは酸性の腐食環境になる
薪を燃やすと煙の中には
- 酢酸
- 蟻酸
- 有機酸
などが含まれます。
これが煙突内部で結露すると酸性の液体になります。
この液体が煙突内部を腐食させる原因になります。
3 煤とタールが腐食を促進する
薪ストーブでは
- 煤
- タール
が煙突内部に付着します。
これらは水分と混ざると腐食性が強くなり、ステンレスの劣化を早めることがあります。
4 薄板で作られている
ハゼ折煙突は
- 軽い
- 加工しやすい
- 価格が安い
というメリットがあります。
そのため板厚は比較的薄い製品が多く、腐食が進むと短期間で穴が開いてしまうことがあります。
もともとは灯油ストーブ用として広まった
実はSUS430煙突は、もともと
- 灯油ストーブ
- 石油ストーブ
などの排気用として広く使われてきました。
灯油ストーブは
- 排気温度が低い
- 煤が少ない
- タールが出ない
ため煙突の腐食はそれほど問題になりませんでした。
つまりSUS430煙突は、長期耐久よりも低価格を優先した煙突だったと考えられます。
なぜ日本ではハゼ折煙突が標準になったのか
ヨーロッパでは薪ストーブ煙突は
- 断熱二重煙突
- 溶接煙突
- 316内部管
といった高耐久構造が一般的です。
一方、日本では長い間ハゼ折煙突(シングル煙突)が主流でした。
この違いには、日本の暖房文化の歴史が大きく関係しています。
日本の煙突は「板金工事」だった
昔の日本では煙突は暖房設備というより板金工事として扱われていました。
屋根職人や板金職人が、トタンやブリキ、鉄板などを使って煙突を作っていたため、板を丸めて作れるハゼ折構造が広く使われました。
石油ストーブの普及
1970年代以降、日本では暖房の主流が薪から石油ストーブへ変わりました。
石油ストーブは
- 排気温度が低い
- 煤がほとんど出ない
- タールが出ない
という特徴があり、高い耐久性の煙突が必ずしも必要ではありませんでした。
そこで安価な430ステンレスのハゼ折煙突が大量に普及しました。
煙突は「排気パイプ」という考え方
ヨーロッパでは煙突は暖房設備の重要な部分として考えられていますが、日本では長く排気パイプとして扱われてきました。
そのため、価格や施工の簡単さが優先される市場になりました。
なぜ煙突は下から腐食するのか
煙突が腐食して穴が開く場合、多くは下の方から腐食が始まります。
これは薪ストーブ煙突の構造と燃焼の仕組みに理由があります。
煙突内部では酸性の液体が発生する
薪を燃やすと煙の中には
- 水蒸気
- 酢酸
- 蟻酸
- 有機酸
- 微粒子の煤
などが含まれます。
煙突が冷えてくると結露が発生し、これらが混ざって酸性の液体になります。
この液体が煙突を腐食させる
この酸性液体は煤やタールと混ざり、さらに腐食性が強くなります。
それが煙突内部を流れ落ちることで、ステンレスを腐食させます。
なぜ煙突の下に溜まるのか
液体は重力で下に流れるため、
- エルボ部分
- ストーブ接続部
- 下側の煙突
などに溜まりやすくなります。
つまり腐食は下から進むことが多いのです。
煙突の寿命比較(430・304・316)
煙突の寿命は
- 使用環境
- 燃焼方法
- メンテナンス
によって変わりますが、使用されているステンレス素材によって耐久性の傾向は大きく変わります。
SUS430煙突
寿命の目安
3〜10年程度
理由
- 耐食性が304より低い
- 酸性結露に弱い
- タールや煤の影響を受けやすい
実際には「3〜5年で穴が開いた」という話も珍しくありません。
特に
- 燃焼温度が低い
- タールが多い
- メンテナンス不足
の場合は腐食が早く進むことがあります。
SUS304煙突
寿命の目安
10〜20年以上
304はニッケルを含むオーステナイト系ステンレスで、耐食性が430より高くなります。
そのため薪ストーブや暖炉、業務設備などでも広く使われています。
SUS316煙突
寿命の目安
20年以上
316にはモリブデンが含まれており、酸性腐食に対する耐性が高くなります。
そのため煙突内部のような腐食環境に適しています。
なぜ断熱二重煙突は腐食しにくいのか
煙突の腐食は主に結露(コンデンス)によって発生します。
そのため煙突の寿命を大きく左右するのは煙突内部の温度です。
一重煙突は温度が下がりやすい
一重煙突は金属のパイプが1枚だけの構造です。
そのため熱がすぐに外へ逃げてしまい、煙の温度が下がって煙突内部で結露が発生しやすくなります。
この結露に酸性成分や煤、タールが混ざることで、腐食性の強い液体になります。
断熱煙突は煙の温度を保つ
断熱二重煙突は外筒と内筒の間に断熱材が入っています。
そのため煙の温度が下がりにくく、
- 結露が起きにくい
- タールが発生しにくい
- 煤が付きにくい
という効果があります。
結果として、煙突の腐食も起きにくくなります。
もう一つのメリット「ドラフト」
断熱煙突は腐食だけでなく、ドラフト(煙突の引き)にも大きく影響します。
煙が高温のまま煙突を上がることで、上昇気流が強くなりドラフトが安定します。
そのため
- 着火がしやすい
- 煙が逆流しにくい
- 燃焼が安定する
というメリットがあります。
山のえんとつ屋の煙突が最安ではない理由
山のえんとつ屋の煙突は、業界の中で最安価格の商品ではありません。
その理由は使用しているステンレス素材の違いにあります。
安価な煙突の多くはSUS430で作られていますが、山のえんとつ屋では長期間の使用を考え、より耐食性の高い素材を採用しています。
断熱二重煙突は内部管SUS316・外筒SUS304・板厚0.5mm、一重煙突はSUS304・板厚0.7mmです。
価格だけを見ると最安商品には見えないかもしれませんが、煙突は設置後の交換が大変な設備です。長く安心して使うことを考えるなら、素材の違いは大きな意味があります。
薪ストーブは煙突で性能が決まる
薪ストーブは本体だけでは性能を発揮できません。
煙突が
- ドラフトを作り
- 燃焼を安定させ
- 安全性を確保します
ヨーロッパでは「薪ストーブの性能は煙突で決まる」とも言われています。
煙突は単なる排気管ではなく、薪ストーブシステムの重要な装置なのです。
煙突選びに迷ったら煙突ビルダーで診断を
煙突は素材だけでなく、
- 高さ
- 横引きの長さ
- 屋根抜きか壁抜きか
- 使用する薪ストーブとの相性
によっても性能や耐久性が大きく変わります。
そのため「どの煙突を選べばよいかわからない」「自宅の設置条件で問題ないか不安」という場合は、煙突ビルダーから煙突診断を受けるのがおすすめです。
煙突ビルダーを使えば、設置条件に合わせて必要な部材や高さの確認がしやすくなり、無理のある設計や短すぎる煙突計画を避けやすくなります。
薪ストーブは本体選びも大切ですが、長く安全に使うためには煙突設計がとても重要です。迷った時は、煙突ビルダーから煙突診断をご利用ください。