離隔距離は50mmでOKなのか?G50の試験内容から徹底解説

離隔距離は50mmでOKなのか?G50の試験内容から徹底解説

断熱二重煙突についてご説明するとき、お客様からよく聞かれるのが、 「煙突と木材などの可燃物は、どのくらい離せばよいのですか?」 という質問です。

山のえんとつ屋では、当店で取り扱っている EN1856-1のG50認証を取得した断熱二重煙突について、基本的に次のようにご説明しています。

煙突の外面から木材などの可燃物まで、50mm以上の離隔距離を確保してください。

しかし、薪ストーブの煙突は高温になるはずなのに、なぜ50mmなのでしょうか。

50mmという数字は、経験や感覚だけで決められたものではありません。 ヨーロッパの金属製煙突規格であるEN1856-1に基づく試験によって確認された距離です。

この記事では、当店の煙突に表示されているG50の意味、1000℃・30分間の試験、 通常運転時の実際の表面温度、材質や腐食の違い、施工時に注意すべき点まで詳しく解説します。


EN1856-1とは

EN1856-1は、金属製煙突システムの性能や安全性を評価するヨーロッパ規格です。

単に「ステンレス製の二重煙突である」というだけではなく、使用温度、気密性、耐湿性、 耐食性、煙道火災への耐性、可燃物までの離隔距離などを試験し、その性能を記号で表示します。

当店で取り扱っている断熱二重煙突には、次の性能表示があります。

EN1856-1 T600 N1 W V2 L50050 G50

一見すると暗号のように見えますが、それぞれの記号には煙突の重要な性能が示されています。

表示 区分 意味
T600 温度クラス 最高連続使用温度600℃の区分
N1 圧力クラス 自然ドラフトで使用する負圧煙突の区分
W 耐湿区分 湿潤条件で使用できる区分
V2 耐食性区分 規定された耐腐食性能の区分
L50050 材質・板厚 内筒の材質区分と公称板厚0.50mmを表す表示
G50 煙道火災・離隔距離 煙道火災試験に合格し、可燃物まで50mmで評価された煙突

G50とは何を意味するのか

G50のGは、煙突内部の煤やクレオソートが燃える煙道火災に対する耐性が 確認されていることを表します。

薪ストーブを低温でくすぶらせたり、含水率の高い薪を燃やしたりすると、 煙突内部に煤やタール、クレオソートが多く付着することがあります。

それらに火がつくと、煙突内部で急激な燃焼が発生し、通常運転時よりもはるかに高温になります。 これが煙道火災です。

末尾の50は、煙突外面から木材などの可燃物までの離隔距離を ミリメートルで表したものです。

G50=煙道火災への耐性が確認され、規格の試験条件において、 可燃物から50mmの離隔距離で評価された煙突

なぜ離隔距離は50mmなのか

50mmという距離は、煙突の表面温度だけを見て決められているわけではありません。

EN1856-1で定められた試験条件に基づき、煙突の周囲に木材などの可燃物を配置し、 煙突内部を高温にした状態で可燃物側の温度を測定します。

煙突と可燃物との距離を50mmにした状態で規格の基準を満たすことが確認されたため、 製品表示がG50となっています。

したがって50mmは単なる目安や推奨値ではなく、 その煙突システムについて規格試験で確認された離隔距離です。

1000℃・30分間の煙道火災試験

G表示を取得する煙突では、煙道火災を想定した高温試験が行われます。

約1000℃・30分間

煙道火災を想定した高温条件で試験

この試験では、単に煙突が溶けないかを見るだけではありません。

  • 可燃物側の温度が規定値を超えないこと
  • 可燃物に燃焼や著しい炭化が発生しないこと
  • 煙突に破損や重大な変形が発生しないこと
  • 高温ガスや炎が接続部から外へ漏れないこと
  • 試験後も煙突として必要な性能が維持されること

つまりG50は、通常運転時だけではなく、 煙道火災という異常な高温状態まで想定した試験結果に基づく表示です。

断熱二重煙突の外側は実際にどれくらい熱くなるのか

「煙突の中が数百℃になるなら、煙突の外側も触れないほど熱くなるのではないか」 と心配される方も少なくありません。

しかし、煙道内を流れる排気の温度と、断熱二重煙突の外筒表面の温度は同じではありません。

断熱二重煙突は、内筒と外筒の間に断熱材を充填し、 煙道内の熱が外側へ伝わりにくい構造になっています。

当店でも施工や点検の際に通常運転中の断熱二重煙突に触れることがありますが、 外筒は手で触れられる程度の温度に収まることがほとんどです。

また、煙突の温度は上へ行くほど下がるため、 屋根貫通部付近では外筒表面が約40℃程度まで低下するケースも確認しています。

実際には、通常運転中の断熱二重煙突よりも、 真夏の直射日光を長時間浴びたステンレス煙突の方が、触れないほど熱く感じることがあります。

初めて断熱二重煙突に触れたお客様から、 「思っていたより全然熱くないですね」と言われることも少なくありません。

ただし、表面温度は使用条件によって変化します。

  • 使用する薪ストーブの出力
  • 投入する薪の量と含水率
  • 空気調整と燃焼状態
  • 煙突の長さと構成
  • 室温や外気温
  • 煙突周囲の通気状態
  • 長時間連続運転の有無

そのため、あらゆる状況で必ず手で触れられると保証するものではありません。 特にストーブ直上、接続部、異常燃焼時には高温になる可能性があります。

重要なのは、普段の運転時に表面温度が低いという経験だけで安全性を判断しているのではなく、 さらに1000℃・30分間の煙道火災試験を行ったうえでG50が認められているという点です。

煙突のどこから50mmを測るのか

離隔距離は、基本的に断熱二重煙突の外面から、可燃物の最も近い表面までを測定します。

煙突の中心から50mmではありません。また、煙突の内径部分から50mmでもありません。

離隔距離50mmとは、断熱二重煙突の外筒表面と可燃物との間に、 50mm以上の空間を確保するという意味です。

柱、梁、垂木、野地板、壁下地、天井下地など、 仕上げ材の裏側に隠れている木材にも注意が必要です。

一重煙突にはG50を適用できません

一重煙突には、内筒と外筒の間の断熱材がありません。 煙道内の熱が直接煙突表面へ伝わるため、断熱二重煙突と比べて表面温度が大きく上昇します。

一重煙突には、ストーブ本体に近い室内で熱を放出できるという特徴がありますが、 木材や壁、天井の近くでは、断熱二重煙突と同じ離隔距離を適用できません。

項目 一重煙突 断熱二重煙突
構造 ステンレス筒のみ 内筒・断熱材・外筒
表面温度 高温になりやすい 外側への熱伝達を抑える
主な使用場所 ストーブ直上などの室内開放部 壁・天井・屋根の貫通部、屋外部分
G50 適用不可 G50として認証された製品に限り適用

G50は、G50として試験・認証された断熱二重煙突に対する性能表示です。

異なるメーカーの部材を組み合わせたり、認証外の加工を行ったりすると、 認証時と同じ性能が維持されるとは限りません。

G50なら50mm離せば、どのような施工でも安全なのか

ここは誤解されやすい部分です。

G50は、EN1856-1で定められた試験条件において、 可燃物から50mm離した状態で安全性が確認されたことを表します。

しかし、50mmあれば、あらゆる施工条件で必ず安全という意味ではありません。

実際の建物では、次の条件によって煙突周囲の温度が変化します。

  • 煙突の高さや配置
  • ストーブの出力と使用温度
  • 煙突を囲う壁やシャフトの有無
  • 囲い内部の換気状態
  • 天井裏や屋根裏の通気状態
  • 壁、柱、梁などの構造
  • 煙突周囲への断熱材の詰め込み
  • 長時間連続して使用するかどうか

特に煙突を壁や箱で囲う場合、熱が逃げにくくなり、 開放された状態よりも周囲温度が高くなる可能性があります。

天井や屋根を貫通する部分も、室内の開放された場所で壁から50mm離す場合とは条件が異なります。

そのため山のえんとつ屋では、G50を規格上確認された離隔距離として説明しながら、 施工条件が許す場合には、さらに余裕を持った離隔距離を確保することをおすすめしています。

50mmの隙間に断熱材を詰めてもよいのか

G50の試験条件が空気層を前提としている場合、 50mmの隙間へ断熱材を詰めると試験時とは異なる条件になります。

断熱材を入れることで木材側へ熱が伝わりにくくなるように感じるかもしれません。 しかし一方で、煙突外面の熱が逃げにくくなり、 煙突本体や周囲の温度条件が変わる可能性があります。

特に貫通部分や囲い内部では、自己判断で断熱材を詰め込まず、 使用する貫通部材の構造と施工条件を確認してください。

煙突は熱だけでなく腐食にもさらされます

煙突を選ぶときは、耐熱性能や離隔距離だけでなく、耐腐食性能も重要です。

薪を燃やした排気には水分やさまざまな燃焼生成物が含まれています。 排気が冷えると煙突内部で結露が発生し、その水分に煤やタールが混ざることで、 煙突内部が腐食しやすい環境になります。

特に次のような条件では腐食が進みやすくなります。

  • 含水率の高い薪を燃やしている
  • 低温でくすぶらせる燃焼が多い
  • 煙突内部にタールや煤が多く付着している
  • 屋外部分で煙が急激に冷やされる
  • 煙突掃除や点検が十分に行われていない

SUS430系のハゼ折煙突との違い

比較的安価な煙突では、薄いステンレス板を折り曲げて継ぎ目を作る ハゼ折構造が採用されていることがあります。

また、材質としてSUS430系などのフェライト系ステンレスが使用される製品もあります。

SUS430が煙突材料としてまったく使用できないという意味ではありません。 使用条件、燃焼状態、施工方法、点検頻度によっては長期間使用できる場合もあります。

ただし、一般的にはSUS304やSUS316Lなどのオーステナイト系ステンレスの方が、 腐食環境に対して有利です。

当店のEN1856-1認証煙突は、内筒に耐食性の高いSUS316Lを使用し、 性能表示はV2・L50050となっています。

表示・材質 主な特徴
SUS430 比較的安価なフェライト系ステンレス。使用環境によっては腐食に注意が必要
SUS304 広く使用されるオーステナイト系ステンレスで、SUS430より耐食性に優れる
SUS316L より高い耐食性が期待でき、腐食環境にさらされる煙突内筒に適している
V2 EN1856-1における耐腐食性能の区分
L50050 内筒の材質区分と公称板厚0.50mmを示す表示

実際に確認したハゼ折煙突の腐食

山のえんとつ屋では、 実際に腐食して穴が開いたハゼ折煙突を数多く確認しています。

腐食が進み、煙突表面に穴が開いたハゼ折煙突の事例

曲がり部分に腐食が発生した煙突エルボの事例

特にハゼ折部分や曲がり部分では、結露水やタールが滞留しやすくなる場合があります。 腐食や変形が進むと、継ぎ目からタールがにじみ出る事例もあります。

もちろん、すべてのSUS430煙突やハゼ折煙突が短期間で腐食するわけではありません。

寿命は使用条件、薪の乾燥状態、燃焼方法、煙突の施工方法、 掃除や点検の頻度によって大きく変わります。

しかし煙突は、壁や屋根の内部など簡単に交換できない場所にも使用されます。 そのため初期価格だけでなく、材質、構造、耐腐食性能、認証の有無まで確認して選ぶことが重要です。

EN1856-1と日本の建築基準法・消防法は別のもの

EN1856-1に適合していることと、日本国内の施工に関する法令へ適合していることは別の問題です。

EN1856-1は、主として煙突製品そのものの耐熱性、耐食性、圧力区分、 煙道火災耐性、離隔距離などを評価する規格です。

一方、日本の建築基準法、消防法、各自治体の火災予防条例などは、 建物の用途や構造を含めた設置方法、貫通部分、防火上の措置などに関係します。

区分 主に確認する内容
EN1856-1 煙突製品の耐熱性、耐食性、圧力区分、煙道火災耐性、離隔距離など
建築基準法など 建物に対する煙突の設置方法、防火上の構造、貫通部分など
消防法・火災予防条例 火気設備の設置、周囲との距離、建物用途ごとの安全措置など

そのため、G50認証を取得した煙突であっても、 日本国内でどのように施工してもよいという意味ではありません。

店舗・宿泊施設・公共施設・新築住宅では特に注意

次のような建物では、一般住宅への既設設置以上に、 法令や行政上の確認が重要になる場合があります。

  • 飲食店や物販店などの店舗
  • ホテル、旅館、民泊などの宿泊施設
  • 事務所、工場、倉庫
  • 学校、福祉施設、公共施設
  • 新築住宅
  • 確認申請や完了検査を伴う工事

建物の用途、規模、地域、設置するストーブの種類によって確認内容が異なる場合があります。

必要に応じて、設計者、建築士、施工会社、確認検査機関、 消防署、自治体の担当窓口などへ事前に確認してください。

「最低離隔距離50mm」という説明について

当店では、お客様に分かりやすく説明するため、 「可燃物からの最低離隔距離は50mmです」とお伝えすることがあります。

ただし、より正確に表現するなら次のようになります。

この煙突は、EN1856-1の試験において、 可燃物から50mmの離隔距離で安全性が確認されたG50の煙突です。

「最低離隔距離」という言葉だけでは、どのような建物や施工条件でも 50mmでよいと受け取られる可能性があります。

実際には、製品規格、煙突の構成、建物の構造、施工方法、 日本の法令をそれぞれ確認する必要があります。

山のえんとつ屋の考え方

煙突は、ストーブを使用している間、何年にもわたって繰り返し熱にさらされます。

一度問題なく使用できたからといって、長期間にわたり同じ状態が続くとは限りません。 木材は長期間熱にさらされることで乾燥や低温炭化が進み、着火しやすくなる可能性があります。

だからこそ、山のえんとつ屋では次の点が重要だと考えています。

  • 認証を取得した煙突を使用すること
  • 認証表示の意味を正しく理解すること
  • 規格上の離隔距離を守ること
  • 認証された構成と純正部材を使用すること
  • 可能な範囲で余裕を持った施工を行うこと
  • 建物や用途に応じて日本の法令も確認すること
  • 定期的に煙突掃除と点検を行うこと

「50mmという数字だけを守ればよい」のではありません。

なぜ50mmなのかを理解したうえで、 煙突、ストーブ、貫通部、建物全体を一つのシステムとして安全に施工することが大切です。

まとめ

  • G50は、煙道火災への耐性と可燃物までの離隔距離50mmを示す性能表示です。
  • 50mmは、煙突外面から可燃物の最も近い部分までの距離です。
  • 約1000℃・30分間の煙道火災試験を想定した評価が行われます。
  • 断熱二重煙突は、内筒と外筒の間の断熱材によって外側への熱伝達を抑えます。
  • 通常運転時には、外筒が手で触れられる程度に収まることがほとんどです。
  • 屋根貫通部付近では、外筒表面が約40℃程度まで低下するケースがあります。
  • 真夏の直射日光を浴びたステンレス煙突の方が熱く感じることもあります。
  • 一重煙突や認証の異なる煙突にG50を適用することはできません。
  • 50mmの隙間へ断熱材を詰めると、認証試験とは異なる条件になる場合があります。
  • 煙突を選ぶ際は、耐熱性だけでなく材質や耐腐食性能も重要です。
  • EN1856-1と日本の建築基準法、消防法、火災予防条例は別に確認する必要があります。

当店の断熱二重煙突は、 EN1856-1 T600 N1 W V2 L50050 G50の性能表示を持つ煙突です。

山のえんとつ屋では、煙突を販売するだけでなく、 規格の意味、材質の違い、施工上の注意点についても、 できる限り分かりやすくお伝えしています。

煙突の選定や施工方法について不明な点がある場合は、 使用する薪ストーブ、建物の構造、設置予定場所の写真や図面をご用意のうえ、ご相談ください。


※本記事は、煙突規格および一般的な施工上の考え方を解説するものです。 個別の建物に対する法令適合性や施工の安全性を一律に保証するものではありません。 実際の施工では、建物の構造、用途、地域の条例、設計条件、 使用する煙突および ストーブの仕様をご確認ください。

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